第1章

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「私には出来なかったのです。人の心に踏み込むことが、どうやら苦手なのです」  ――ああ。 「だから僕にさせたんだな?」 「普通の人なら何も出来ずに終わっていた。でも、天田さんは、それだけのことです」  答えは一つしかなかった。でも、そこに辿り着くために、舜は出会った大切な仲間たちを傷つけさせてしまった。でも、それでも彼女たちを守り通せたことが、舜は少しだけ誇らしかった。 「でも、気づかないこともあるみたいですね。あなたも私も」 「ん? 何がだ?」  ひよりは上目遣いで舜の瞳をじっと見つめる。まるで舜の反応を楽しむかのように、ニヤニヤと笑みを浮かべている。 「ふふふ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」 「誰の言葉だ?」  何処かで聞き覚えがありそうで、舜の記憶にはないものだった。 「HIYORI(ヒヨリ) MISHIMA(ミシマ)」 「やっぱり、お前も変態だな」 「えへへへ。気づいちゃいました?」  人はどれだけ他人のことを知っているのだろう。どれだけ他人の気持ちや行動に気づいてあげられるのだろう。例えば青い空。川のせせらぎ。潮の満ち引き。誰かの息づかい。高まる鼓動。揺れる瞳。燃える心。張り裂けそうな想い。  それらは秘められた蕾のように、咲かなければそもそも花だとわからないかもしれない。でも、それでもその蕾に気づくことが出来れば、人は他人を理解するのかもしれないなと天田舜は思うのだった。  It’s a secret blossom.   シークレット・ブロッサム  (了)
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