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「私には出来なかったのです。人の心に踏み込むことが、どうやら苦手なのです」
――ああ。
「だから僕にさせたんだな?」
「普通の人なら何も出来ずに終わっていた。でも、天田さんは気づく人間だった、それだけのことです」
答えは一つしかなかった。でも、そこに辿り着くために、舜は出会った大切な仲間たちを傷つけさせてしまった。でも、それでも彼女たちを守り通せたことが、舜は少しだけ誇らしかった。
「でも、気づかないこともあるみたいですね。あなたも私も」
「ん? 何がだ?」
ひよりは上目遣いで舜の瞳をじっと見つめる。まるで舜の反応を楽しむかのように、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「ふふふ。気づくとは、そのものに興味があるという証明である」
「誰の言葉だ?」
何処かで聞き覚えがありそうで、舜の記憶にはないものだった。
「HIYORI MISHIMA」
「やっぱり、お前も変態だな」
「えへへへ。気づいちゃいました?」
人はどれだけ他人のことを知っているのだろう。どれだけ他人の気持ちや行動に気づいてあげられるのだろう。例えば青い空。川のせせらぎ。潮の満ち引き。誰かの息づかい。高まる鼓動。揺れる瞳。燃える心。張り裂けそうな想い。
それらは秘められた蕾のように、咲かなければそもそも花だとわからないかもしれない。でも、それでもその蕾に気づくことが出来れば、人は他人を理解するのかもしれないなと天田舜は思うのだった。
It’s a secret blossom.
シークレット・ブロッサム (了)
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