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舜がそう尋ねると、女の子はすぐに口許を緩めてくれた。
「はいです。私は二年生の三島ひよりです。初めまして、天田舜さん」
――三島?
「ああ、よろしく」
――ひよりだって?
三島ひより。この学園で彼女の名前を知らぬものはいないだろう。それは生徒会長の美里亜を知らないものがいないのと同義だ。何故なら彼女はーー。
――キャアアアアアッッ!!
突如、通路側から女性の悲鳴が聞こえた。絶叫。まさにそんな感じだった。舜はすぐに立ち上がって演習室の扉まで走る。扉は横開きタイプで、中央より上に四〇センチ四方の覗き窓がついている。その小窓から見える通路の右で、女の子が尻餅をついているのがわかった。
「大丈夫かっ?!」
扉を開け、慌てて女性に駆け寄る舜。その特徴的なツインテールが、まるで恐怖を物語るようにブルブルと震えている。廊下で顔を真っ青にしていたのは、あの七大天使ゆゆだった。
「そ……そ……」
言葉にならないのか、その小動物のような口をぱくぱくさせている。しかし、その細い指先は、さっきまで舜がいた演習室の隣の部屋を指していた。
――第二演習室。
ごくりと生唾を飲み、ゆっくりとその扉の小窓を覗き込む舜。
部屋の中は夕方というのに薄暗く、カーテンが完全に閉められている。その部屋の中央には、白い長机が三つほど集められ、何かを奉っているようにも見えた。
ーーああ。
長机の上には、制服姿の女の子が仰向けになっている。彼女の身体には、上からまっすぐに包丁が突き刺さっていた。
――何で。
扉を開けようとする。しかし、その扉は横にずらしても、何度力いっぱい動かそうとしても、開くことはなかった。
「何で開かないんだ!? ゆゆさん、他に入り口はっ?!」
ゆゆは怯えた様子で動かない。そこにビクつきながらも、ひよりと汐莉が顔を出してきた。
「中で人が倒れている。他に入り口は?」
汐莉は目を丸くし、驚いたように右手で口許を隠す。ひよりは表情一つ変えずに、扉の状態を目で追っている。
「入り口から入れないのでしたら、後は外の窓から入るしかありません。でも、ここは四階ですから……天田さん」
――わかっている。
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