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そう、そんなことはわかっている。だから、この部屋がきっとそういう部屋だということも嫌でも理解している。
――でも。
まだ間に合うかもしれない。まだ生きているかもしれない。だって、人はそう簡単には死ねないのだから。
扉を殴る舜。蹴り上げる舜。そして体当たりをする舜。何度繰り返しただろう。やがて扉は変形し、ついには部屋の中へ倒れ込んでいった。それと同時に転げ込んでしまう舜。痛みで立ち上がることが出来ない。顔にかかる長い髪を、今ほど鬱陶しく思ったことはなかった。
ひよりがスタスタと中に入って、そのまま仰向けの女の子のところまで歩いていく。脈を取っているのだろうか、その表情に恐怖の色はなく、ただ恐ろしいほどに無表情だった。
――どっちだ。
「あなたの頑張りは無駄じゃなかったと思いますよ? 天田さん。だって、少しでも早く、彼女は自分の死を、他人に確認して貰うことが出来たのですから」
――ああ……。
「残念ながら、彼女はもう亡くなっています」
――駄目だったか。
興味半分で現場を覗いてしまったのだろう。やがて汐莉が上げた悲鳴が、いつまでも舜の耳に残り、心まで血のように赤く、そして黒く染めていくようだった。
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