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「終わらないな……まだ終わらない」
校舎の屋上で、舜は冷たい風を受けながら、忙しそうに行き交う人々を眺めている。その隣には、猫のように目を細めながら、地面に寝そべって、日の光を浴びている三島ひよりがいた。薄ピンクの制服が汚れるのを気にも留めず、彼女は心地良さそうに欠伸をしていた。
「なあ、ひより。僕は今回のことで、本当に人間に興味がなかったんだなって思い知ったよ。二年間も同じ道を通って、みんなと同じ空気を吸っていたのに、僕はみんながどんな気持ちで将来を考え、どんなことに不安を覚えていたのか、何も知らなかったんだ」
「そうですね。でもみんなそうだと思いますよ、天田さん」
「ん、どういうことだ?」
「みんなメディアに印象づけられたモデル的な人生のレールに乗るために、絶えず自分のことに一生懸命で、心の底から周囲のことに目を向ける余裕なんてないのです。でもそうだからこそ、自ら考え、答えを選んでいき、失敗を重ね、大人になっていくのだと私は思います」
「お前らしい言い方だな。だが、その通りだ」
だからこそ人は成果を求める。だからこそ人は希少なものに思い焦がれる。逆から遡っていけば、何をすべきかは明確なのに、人はいつでも人生の迷子になる。そして今、舜も心の迷い子になっていたのかもしれない。
「ひより、僕の知識ではわからないことがある」
「はい。何もかもがわかっていたら、変態だなって思っていました」
――変態か。
違いないと舜は思った。
「どうして藤堂先生は、僕らにヒントを出したんだろう。あのまま黙ってさえいれば、もしかしたら気づかなかったかもしれないのに」
「誰かに見つけて欲しかったんですよ、天田さん。そして咎められたかったのです。ですから、ゆゆ先輩が、既に目覚めて病院から抜け出していることを、天田さんに匂わせたのだと思います。それが彼に残された最後の良心だったから」
「良心か……でも、加害者が自分の罪を見つけて欲しいと思う時って、どういう心境なのかな」
舜にはわからない。一度犯した罪を重ねることは理解出来ても、それを告白することにメリットがあるとは思えなかったからだ。
「寂しかったのだと思いますよ? 人は孤独な生き物です。きっと誰かに話を聞いて共感して欲しかったのです」
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