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寂しくて、誰かに共感して欲しかった。そうだとしたら、あの日の彼女の行動はどう説明したら良いのだろう。舜の中で大きくなっていたモヤモヤ。聞かなければ幸せだと思いながらも、舜は口にしてしまうのだった。
「なあ、ひより。どうしてあの日、茉莉華先輩は、一人でホテルへ向かったんだ?」
一瞬の間。ひよりはひよりの、舜には舜の考えがあるということだろう。あの日の夜、舜が茉莉華に何をされたのかは、彼女以外の誰にもわからないのだ。
「次の日に死ぬことを決めていた女の子が、何をするのかなんて私にはわかりません。それに彼女にとって、死よりも大切な何かが、あの日のあの場所にあったのだと私は思うのですよ、天田さん」
それが何だったのか。舜が意識を失った理由は一体何だったのか。本当の意味での、この事件の闇は深いと舜は考えるのだった。
――そう、まだ茉莉華を完全には救えてはいないのだ。
「なあ、ひより。どうして自殺は止まらないんだ?」
自問するかのように言葉を呟く舜。ひよりは起き上がり、制服の裾を叩いていた。
「元凶を正さなければ、一度出来た流れは断ち切れないのですよ、天田さん」
――元凶。
「学園の理事長か。そしてそれにハイエナのように群がる権力者。だが、そいつらを正すには、僕らはまだまだ遠いな」
一学生の身分では、遥か遠く、きっと何の力も及ばない。でも、いつか必ず、彼らを追い詰めてやると舜は誓うのだった。
「えへへ、じゃあ宿題ですね、天田さん。ですから、三人での放課後の見回りパトロールは、まだまだこれからも辞められませんね?」
「ああ、そうだな」
「そして今日は私が当番なのです」
彼女の純粋で嬉しそうな笑みが、心の汚れた舜にはたまらなく眩しかった。
「最後にもう一つだけいいか?」
「はいです、天田さん」
「ひより、どうして、お前が事件を解決をしなかった?」
彼女には見えていたはずだ。事件の全容も何をしなければならなかったのかも。
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