10人が本棚に入れています
本棚に追加
【サブタイトル】
第1話 邂逅
【本文】
爽やかに朝日を迎え入れるはずの青い遮光カーテンは、その日一度も開かれることはなかった。
薄暗い部屋の中、生徒会長の山代美里亜はベッドの上で上体を起こし、腰の辺りまで半分だけパステルブルーの布団をかぶっていた。その露出した細身の腕には、青筋だった血管や骨格までもが透けるように浮かび、何かに怯えるように小刻みに震えているようだった。
全校生徒の中でも、異性だけではなく同性を振り返らせるほどの容姿に恵まれ、また学業でも常に全国模試で二桁の順位に入るほど秀才の彼女。しかし、そんな彼女の象徴でもあった長く艶やかな黒髪は、今は色を失ったかのようにただ力なく、少し膨らんだ胸の前にだらりと垂れ下がっている。その表情にも、かつて覇気を全体で表していたその身体からも、最早生気は感じられなかった。
密閉された部屋の中、たった二人だけだという夢にまで見た状況。あれだけ憧れていた彼女が、今目と鼻の先にいるのに、天田舜の胸はとうとう高鳴ることがなかった。
「それであなたはどうするの?」
彼女から投げられた容赦のない追い打ち。好意を理解した上で、突如として男に重要な選択を迫る。女として卑怯なやり口ではないかと、舜は首を傾げながらも、結局は逃げ場もなくただ溜め息をついてしまう。真顔で人を動かすことが出来るのが、現生徒会長である美里亜の凄さであり、他の誰にもないカリスマ性だった。いや、少なくとも今日この時までは、舜はそう刷り込まれていたのだ。
「どうするのって、僕はどうしたらいいんですか? 美里亜さんは僕にどうして欲しいんですか?」
事件の全てを聞いた。彼女が見たことの全てを聞いた。その上で、結局、舜には彼女にかける言葉が見つからなかったのだ。美里亜の悲しげな顔は、舜を叱責するように、胸に突き刺さった。
「結局、あなたも三島さんと一緒なのね」
こんな言葉を聞きたいわけじゃなかった。そんな表情を見たいわけではなかった。
「あなたもみんなと同じ。常識の殻を破れない雛鳥にもなれない哀れな卵のよう……」
冷めた表情で、舜をどこまでも追いこんでいく美里亜。それでも、舜には彼女の声に応えることが出来なかった。
「ねえ、誰か……」
最初のコメントを投稿しよう!