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苦痛に歪むような表情で、声を絞り出す美里亜。華奢な肩が、その美しかった肩甲骨が、嘆きを表すかのように大きく揺れている。
「終わらせて、この悪夢を……」
両腕を胸の前で組み、想いを抱え込むように俯く美里亜。ガタガタと震え、その腕の上には、ポツリポツリと滴が落ちていった。
美里亜は、舜やひよりを信じて全てを話してくれたはずだった。
それでも舜には未だに信じられなかった。まさか、このマンションの屋上から、次々に女子生徒が飛び降り、その一人の顔が、窓の外でずっと止まって見えたなんて。その少女の顔が、美里亜に微笑みかけていただなんて。
――ただでさえ殺人事件が起こっているのに。
止めなければならない事件がある。終わらせなければならない悲しみがまだ舜には待っている。だけど、どうすれば美里亜を救うことが出来るのだろう。
愛しい彼女から目を背け、やがては背を向けてしまう舜。どうしたらいいのかわからない。自分でも何をどう解決したらいいのかわからない。逃げたいのか、忘れたいのか、それとも彼女の声にまだ溺れたいと思っているのか。彼女は泣いていた。舜が泣かせてしまったのだろう。彼女の期待に応えられなくて。いいや、彼女をどん底まで失望させて。だったら何をすべきだ。舜は何が出来る? 一度逃げた舜は何をすべきだ?
――今度は逃げない。
白いブレザーの背中に突き刺さる視線が、舜に一つの答えを、いいや唯一の間違いのない想いを教えてくれたから。そしてそう、そのためだけに瞬はこの定めともいえるレールの上に乗ったのだから。やがて舜は奥歯を噛み締め、ゆっくりと拳に力を入れた。
「いいですか、美里亜先輩。ちゃんと僕が謎を解いて、ちゃんとあなたを迎えに行きます。だから、あなたはここで僕の答えを待っていて貰えませんか?」
学校にも行けないほど憔悴しきっていた美里亜。髪だって校内で見かけたような、気品や艶などはなく、イライラに打ち負かされたように、ただぼさぼさだったはずだ。見えなくともわかることは多いと、舜は思う。そしてまた背中越しに、彼女の呼吸が乱れているのが舜には伝わっていたのだ。
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