第1章

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【サブタイトル】 第2話 出会い、あるいは律条 【本文】  天田舜は私立ラビエル学園二年の特別進学クラスに在籍している。しかし成績優秀かというと決してそうとは言えず、ギリギリこのクラスに拾ってもらえただけの運が良い人間だ。高身長とクールな顔つきで、多少見た目には恵まれている自覚はあるが、それも年を重ねれば、大した意味をなさなくなるのを舜は良く知っている。 「なあ、舜。今日も山代先輩かっこよかったなー。あんな演説聞いたら、俺、朝から興奮して、授業中に昼寝も出来ねえわあ」  確かに生徒会長の山代美里亜の演説は目を見張るものがあった。そのまま政治家を目指したとしても、彼女ならその力強い言葉と、人を惹きつける美しさという魅力で、選挙戦を勝ち抜いてしまうかもしれない。生徒会長である彼女は、そんな人々を扇動する何かを確かに持っていたのだ。 「とかいって、早速朝から国語と化学の授業で連チャンで寝てたのは、どこのどいつだ、カルキ?」  ハハッと照れ笑いするカルキこと、軽沢響馬(かるさわきょうま)。カルキというのは小さい頃からのあだ名で、名字と名前の頭文字から取ったものである。ただそうなることが決定づけられたのは、中学校の理科実験後の塩素臭事件からだ。髪の長い舜とは違い短髪ツンツン頭の彼は、目鼻立ちがはっきりしていて、スポーツに関しても万能だから、女子受けも案外良いらしい。本人は空気が読めない体質らしく、それには気付いていないようだけれども。 「でも、何だろう。僕には先輩の魅力っていうのがいまいちわかんないんだよな。確かに人目を引くほど綺麗だし、頭もずば抜けて切れる。その上背筋もピンと伸びて背も高いから何をしても絵になる。でも、何か異性として見ると、何か違和感があるというか……」 「頭が良くて超絶美人で高身長モデル体型。誰にでも優しくて将来医者となることが約束されている。これ以上に男が望む部分が他にあるか、舜? 俺は彼女と毎日登下校出来たら死んでもいいぜ」  それほどのものなのだろうか。下校くらいで死んでいたら、毎日死亡事件が起こり大騒ぎになる。ただでさえ、最近変な事件が多発しているのに……。  ――そう、事件だ。
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