ただ引きとめて欲しかった

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 最初に目が行ったのは映画館だった。思い出らしい思い出は特に無い。映画の内容は覚えている。一般的な外国のコメディ。俺が見たくて選んだ映画だが、彼女も気に入ったようで一緒に馬鹿笑いしていた。  次に見かけたのは学校帰りに良く行ったゲーセン。格闘ゲームなど彼女が出来ないゲームを長時間遊んでいつも怒られていた。  その後近くの喫茶店で彼女と一緒にケーキを食べた。これは美味しいと言っていた。ただ、今考えたら何か言いたそうにしていたのでは無いかと思う。  近場から学校までの道を通りつつ寄り道をしていく。だが、同じような思い出ばかりで特別分れるような原因が見当たらない。  俺が悪いのはわかっている。皆が口をそろえて言っているのだから何が原因があるのだろう。だがその肝心の原因が本当にわからなかった。  時間は余っている。恥を忍んで俺は林の家に行った。 「何か用か?いつもは前日に連絡するのに珍しいな」  突然の来訪に林は快く俺を受け入れ部屋に上げてくれた。 「ああ。頼みがあるんだ」  俺はそうして今日のことを全部話した。彼女と行った場所を回り思い出を振り返り、その上で、俺の何が悪かったかわからないと。 「別れたのは良い。だが、理由がわからないんだ。林は何か分かっている感じだった。すまないが教えてくれないか」  真剣にこちらの話を聞いていたが。最後にはこちらを睨んでいた。 「馬鹿野郎が」  初めて見せる林の怒りの形相。そしてそのまま林は俺の顔面に拳をめり込ませた。  倒れる俺の胸倉をつかむ林。頬の痛さと口の中を切った感触が何が起こったか理解できなかった俺にさっきまでの状況を教えてくれた。 「俺が本気で怒っている理由がわかるか?誰の為に怒っているかわかるか?」  俺は首を横に振った。そもそも怒った所なんて見たことが無かった。 「お前の為だよ!本気で心配して本気で怒る。それが友人だろうが!」  俺はそれに頷いた。だが、あいにく怒っている理由がわからない。 「それでは。お前は彼女の為に本気で怒ったことあったか?彼女に何か強い感情ぶつけたことあったか?」  言われて俺ははっとなった。ようやく俺は彼らの怒りの原因を理解出来た。
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