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俺は彼女を愛していなかったらしい。
告白してきたのも彼女だ。彼女のことは嫌いじゃなかった。だから付き合った。その間はもちろん楽しかったが。
彼女は俺を本気で愛してくれていた。だから良く怒って、良く笑っていた。俺に色々と構ってくれていた。
だが俺は何も返していなかった。誕生日やホワイトデーなどの行事は欠かしたことは無い。
だが同時、俺から遊びに誘ったことは、五年という歳月でも一度たりとも無かった。
彼女が別れを告げるのは当たり前だった。こんな俺を好きになり続ける理由は無い。
「ありがとう。目が覚めたよ。俺がどれだけ愚かで彼女を苦しめ傷つけたかわかった。彼女はやっと俺から解放されたんだな」
俺の言葉に舌打ちして拳を振り上げ、もう一度殴ろうとするが寸前で止めた。
「もう一度良く考えろ。最後に見た彼女は解放されたような安らかな顔だったか?」
思い返してもそういう顔では無かった。つらそうで苦しそうで、そして何かこちらに願っている。そんな顔だった。だが、何を願っていたか今の俺に知る方法は無かった。
彼女の時間を犠牲にし続けた俺だが、彼女のことは何一つわからなかった。
「考えたけどわからんな。思い出の場所をもう少し巡って見るよ。自分の罪の確認も兼ねてな」
俺はそういって林に礼を言って家を出た。
殴ったことを謝ってきたが謝罪を受け取る気は無かった。むしろ殴られないとわからない自分の愚かさを再確認出来た。
「どんな結果だろうと。俺とお前は友人だ。だからお前はしっかり自分を見つけてこい」
こんな状況でもそれだけ言ってくれる林。俺には過ぎた友人だった。
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