ただ引きとめて欲しかった

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 彼女と一緒に行った公園についた。ずっと楽しそうにおしゃべりしていた思い出はある。だが今考えると俺から話題を振ったことは一度も無かった。  次は少し遠出して彼女と一緒に行った動物園に来た。若い世代の一人は目立つかと思ったが割とそういう人も多いらしい。  何の動物が好きか彼女は俺に聞いたが、俺は何でも良いとしか答えなかった。  遊園地、雑貨屋、ファミレス、ファストフード店、化粧品屋。  彼女と出かけた思い出の場所を巡る度に見つかるのは自分の愚かな部分だけ。俺には何も見えなかった。むしろ疑問が一つ追加された。何故こんな俺を彼女は告白してくれたのだろうか。  焦る想いとは裏腹に足は進む。良く覚えているものだと自分ながら関心した。正直思い出したく無い記憶になっているが。  それでも思い出巡りは続けた。せめて罪と向き合うくらいはしておかないと、五年も苦しんだ彼女に申し訳が無かった。  土曜だけでは足りず次の日も使ってだが思い出の場所は粗方回れた。今は日曜の午後一時くらい。そしてここが最後の場所だ。  学校の帰り道から少し離れた場所にある海沿いの砂浜。本当になんてことないどうでも良い砂浜だ。観光にすらならない。だが、夕日だけはとても美しかった。  今はそんな時間帯でも無いがそれでも脳内ですぐに補完出来る。美しい夕日とそれを微笑んで見つめる彼女。  ようやく俺は、俺の最大の過ちに気づいた。俺は彼女を傷つけ苦しめ続けた。これは間違いの無い事実だ。だが俺は一つ大きな思い違いをしていた。  俺は彼女を愛していないわけではなかった。二日間。俺はずっと彼女の笑顔を見続けた。たとえみていなくても脳内にすぐその表情をした彼女が出てくる。  俺は彼女の笑顔が大好きだった。  自分のことなのにそんなことにすら俺は気づいていなかった。わからないのは彼女のことだけでは無い。俺自身のことだった。  ようやく自分の気持ちを理解した俺は、ようやく本当の意味で失恋した。
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