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ない。
「これ何分待ったと!?」
妙子の博多弁はいつもの間延びが無かった。
「え?ちゃんと三分待ったよ、完璧だよ、妙子」
だが妙子の次の言葉は僕の常識を覆すものだった。
「カップ焼そばち言うたら1分半に決まっと~けん!なんしよんキサン!?バカやないと!?」
木産馬鹿やナイトってきしばっせぇ・・・。
私は無知だった。つい薩摩弁を漏らした。
博多の掟。
麺はバリカタ。
この地は福岡。妙子の故郷博多の地では、カップ焼そばは三分ではなかったのだ。
僕は奈落の底へ叩き落とされた。
「ウチこんなん食べれけんもう寝る!」
全国圏で美味しく召し上がられたであろう、程良い加減のカップ焼そばは怒りの妙子に撥ね付けられ、それでもホカホカ湯気を立てていた。
妙子は機嫌を損ないベッドに転がり込んでふて寝してしまった。
僕は我を忘れた。
おいは、おいはなんをしよったとけ?
妙子さぁの為にカップ焼そばを気張い作っせぇたもらせようとしたどん・・・。
薩摩人の僕は博多の地で大きな間違いを犯した。
そんなつもりは、妙子を怒らせて悲しませるつもりはなかったのに。
文化の違いは、カップ焼そばの麺の固さは僕ら二人を、 鹿児島人と福岡人の二人の関係をここまで引き裂いてしまうと言うのか?
僕は自分の無知を、作り方三分の説明書きを深く憎んだ。
どれくらい時間がたったろう。
二つの、完璧に出来あった筈の出来損ないのカップ焼そばは既に冷めてしまっている。
僕はハッと我を取り戻した。
そしてそのままふて寝していた妙子に、そっと毛布をかけてやった。
「風邪をひきやんなぁ」
ふとこぼれた鹿児島弁。
妙子は起きていたのか鹿児島弁が通じたのかわからなかったがしくしくと泣き出した。
「カズやんは鹿児島の人やけんね」
妙子の、たったそれだけの言葉に何故か僕も涙がこぼれた。
「ウチ博多の人やけん、ウチがワガママやったけんが、カズやん何も悪いことなんてしてなかったとに」
妙子のすすり泣きは続いた、そして妙子の一言
「冷たくしてごめんね、こっち来て」
この意味は僕にも分かった。
二人であたため合ってから眠ったその翌朝。
二つのカップ焼そばはベランダに咲いたカトレアの肥料になった。
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