野球部のエースとマネージャー

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私が犬を散歩させていると、高山君が向こうから一人で走ってくるのがよくあるからだ。私が挨拶すると、高山君もニコッとしながら返事をして走り去っていく。多分戻ったら筋肉トレーニングをするのだろう。よっぽど天気が悪くない限り、こうやって高山君と二人きりの時間を持つ私は、高山君が野球のことで精一杯なのを知っている。 野球部のエースというのは失敗が許されないので、好色に浸るわけにはいかない。厳しさを増すほど良い結果が出るので、休みの日も朝トレをしている。 実は、私は野球部のマネージャーをしている。他の女子よりも高山君をそばで見ている。もっとも、高山君だけでなく他の部員の世話もしなければならないから、いちいち情を入れてたらこっちの体が持たない。ほとんど袋叩きに遭うので、高山君をそばで見られる特典でも割に合わないのだ。 野球部の練習や試合を見にくる女子は沢山いる。しかし、そういう下心ミエミエの輩は、私を無視して高山君ばかり黄色い声で応援する。中には、私に聞こえよがしに「マネージャーをしてるからそれが何?」とイヤミを言う者までいる。私は私で、「じゃあ、代わってよ! どんなに大変なのか一度やったらいい」と喉まで出かかった言葉を押し込める。 「 私は運動音痴だし、文化部でも使い物にならないので、仕方なくこの役をしてるのよ。どこかの部に強制加入なら、それでもするしかないでしょ!」     
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