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正直な所鬼などと言う存在に彼が信じるかどうかは、また別の話であった。「それは、災難でしたね。人の所業も、物語もまた巡り合わせ。自分で道を決めているつもりでも、実は大きな何かに動かされているのです。問題は、その当たり前ではないこの事象に気付き、変えてしまう事。機関車であっても、無理に路線の変更は不可能でしょう。」住職の話が全て理解できたわけではないが、それでも私は彼の言葉の一片一片が、染み入ってくるようだった。これからは出家し、心を入れ替えて修行しようと心に決められなかったのには理由があった。住職の額に、一本の角。「しかし私もその鬼の残りかす、末裔なのです。この節は私の仲間がご迷惑をおかけしました。あなたもまた、偶然の巡りあわせの陥落にはまった不幸な人間、このお詫びは必ずいたしましょう。しかし…」そこまで言うと、住職はゆっくりと口角を緩める。「どうぞ、私共が都市伝説の類である、という事をお忘れなきよう。」私はその言葉の意味を完全に把握したわけではなかったが、確かに背筋から血の気が引いていくのを感じた。私は何かに気付いた。何かに突き動かされるように、あの河川敷へと駆け出していた。
私があの鬼に出会った河川敷にようやっとの思いでたどり着いた時にはすでにもぬけの殻で、ただ生暖かい風を感じるのみであった。
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