神様の1日

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 現場である花屋『フローリスト田中』の店先では、一触即発といった雰囲気が漂っていた。 いつもは温厚な田中さん家の亀も、剣呑な表情をしている。 「一体どうしたというのですか」 「おや、狐さん。いや、このうさぎが私のことを、のろまだとバカにするんです。最初は相手にしていなかったんですが、あんまりしつこいから、私も頭に来てしまって」  亀は狐を見て、すまなそうな顔をした。 「何言ってんだ!のろまなのは本当のことだろ?のろまにのろまって言って、何が悪いんだよ!」  対する兎は、まだこの町に来たばかりの若い兎だ。町の動物達との顔合わせはもう済んでいるが、町のルールがまだあまりわかっていないようだった。 「兎さん。この町では動物同士の喧嘩は認められていません。決闘も同じです。この町には様々な動物達が暮らしているのです。確かに、それぞれ得意不得意もあるでしょう。だからこそ、お互いを尊重し合わなければならないのですよ」  狐が諭すように言うと、兎はバカにしたようにふん、と鼻を鳴らした。 「そうはいっても、この亀に尊重出来るとこなんかあるもんか!」 「そうでしょうか。確かに足は兎さんの方が早いでしょう。しかし、亀さんはいつも働き者で、住んでいるお店のためにチラシを配ったり、頑張ってお仕事をされています。あなたはどうですか? 「オレは、別に1日何もしてないけど…」  少しばつが悪そうに目をそらした兎に、狐は続けて言う。 「それに。亀さんにはとても固い甲羅がありますね。兎さんではぶつかったら死んでしまうかもしれない石でも、亀さんなら弾くことが出来ますよ。どうですか?」 「まぁ…確かにオレは柔らかいから…」  狐に諭され、兎はどんどん勢いをなくしていった。 耳は下にぶらんと下がり、しょんぼりした様子である。 「いいですか。この町では皆さん、助け合って暮らしているのです。もしあなたや、あなたのご家族に何かあったとき。きっと、皆が力になってくれます。亀さんも例外ではありません。それなのに、あなたは亀さんをバカにするのですか?」  狐の優しい声でそう言われると、兎も何故亀にこんなにも突っかかっていたのか、よくわからなくなってきた。 「そうだよな。ごめん、亀さん。オレが悪かったよ」 「わかってもらえればいいんですよ。もう他人をバカにしないで下さいねぇ」  ほっとした様子で、亀は店へと入っていった。
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