17人が本棚に入れています
本棚に追加
現場である花屋『フローリスト田中』の店先では、一触即発といった雰囲気が漂っていた。
いつもは温厚な田中さん家の亀も、剣呑な表情をしている。
「一体どうしたというのですか」
「おや、狐さん。いや、このうさぎが私のことを、のろまだとバカにするんです。最初は相手にしていなかったんですが、あんまりしつこいから、私も頭に来てしまって」
亀は狐を見て、すまなそうな顔をした。
「何言ってんだ!のろまなのは本当のことだろ?のろまにのろまって言って、何が悪いんだよ!」
対する兎は、まだこの町に来たばかりの若い兎だ。町の動物達との顔合わせはもう済んでいるが、町のルールがまだあまりわかっていないようだった。
「兎さん。この町では動物同士の喧嘩は認められていません。決闘も同じです。この町には様々な動物達が暮らしているのです。確かに、それぞれ得意不得意もあるでしょう。だからこそ、お互いを尊重し合わなければならないのですよ」
狐が諭すように言うと、兎はバカにしたようにふん、と鼻を鳴らした。
「そうはいっても、この亀に尊重出来るとこなんかあるもんか!」
「そうでしょうか。確かに足は兎さんの方が早いでしょう。しかし、亀さんはいつも働き者で、住んでいるお店のためにチラシを配ったり、頑張ってお仕事をされています。あなたはどうですか?
「オレは、別に1日何もしてないけど…」
少しばつが悪そうに目をそらした兎に、狐は続けて言う。
「それに。亀さんにはとても固い甲羅がありますね。兎さんではぶつかったら死んでしまうかもしれない石でも、亀さんなら弾くことが出来ますよ。どうですか?」
「まぁ…確かにオレは柔らかいから…」
狐に諭され、兎はどんどん勢いをなくしていった。
耳は下にぶらんと下がり、しょんぼりした様子である。
「いいですか。この町では皆さん、助け合って暮らしているのです。もしあなたや、あなたのご家族に何かあったとき。きっと、皆が力になってくれます。亀さんも例外ではありません。それなのに、あなたは亀さんをバカにするのですか?」
狐の優しい声でそう言われると、兎も何故亀にこんなにも突っかかっていたのか、よくわからなくなってきた。
「そうだよな。ごめん、亀さん。オレが悪かったよ」
「わかってもらえればいいんですよ。もう他人をバカにしないで下さいねぇ」
ほっとした様子で、亀は店へと入っていった。
最初のコメントを投稿しよう!