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   つい昨日のこと。  五、六時間目の家庭科で作ったカップケーキを同じクラスの里中の家へ届けに行った。ラッピングペーパーも用意して、母親と事前に何度も練習をしたおかげもあって、見た目はもちろん味もかなりいい感じに仕上がった。いつも一緒にお弁当を食べてる子たちの中でも口が堅いってわかってる奈美にだけ話して、ついてきてもらった。  玄関の前で、「お父さんとかお母さんが出てきたらどうしよ。逃げる?」「バカね、あいさつだけはしなきゃ!」とか何とか言い合いながら、心臓が皮膚を突き破って飛び出しそうなぐらいドクンドクンいってるのを五つまで数えたあたりで、「はいー」ってちょっと鼻にかかった声がドアフォンの向こうから聞こえた。  調理実習があったことも知ってるし、これまで尋ねて来たこともないヤツがソワソワしてそこに立っていたら、何も言わなくたって勘付かれる。だから余計なことは言わないで、「あの、これ」だけ言ってカップケーキが入った紙袋を差し出した。もちろん手紙もカードもつけていない。それは数か月後のバレンタインに取っておこうと思っていた。  教室にいる時よりも小さな声で「ありがと」と里中は言い、白地に星をちりばめた紙袋をぎゅっとつかむと、 「竹下がお前のことを好きなの、知ってた?」  と、まっすぐにこっちを見て言った。  は?  瞬間、頭の中をいくつもの「?」が駆け巡った。  竹下? 里中と同じバスケ部の?  っていうか里中は今、何を言ったの?  き、聞きたかった言葉はそれだったっけ?  奈美に背中をつつかれ、思わず「はいっ」と、意外なぐらい大きな声が出た。 「同じバスケ部の竹下な。……知ってたんだ」  え? だから知らないって。いや、竹下は知ってるけど。それが声になって口から出てこない。 「あいつ、吉田のことが好きなんだって」  里中は紙袋を開いて中を確かめ、「あ」という表情で笑って、でも笑ったのはその一瞬だけだった。 「うん。だから、竹下が、そういうこと。これ、うまそうだね」  最後に「ありがと」と里中が言った時、もう一度視線がカチンとぶつかって、それで目の前でぱたんとドアが閉まった。しばらく動けないままドアを見つめるしかなかった。奈美は何も言わずに背中に手を回してくれて、まるでつっかえ棒のように背中を支えてくれていた。
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