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修学旅行があったのは先月。
帰りの新幹線で気分が悪くて席を立った時に、三列前に座っていた里中とたまたま目が合った。何も話さなかったけど、見るからに心配そうな顔をこっちに向けていた。クラス委員の責任感なのかとも思ったけれど、追いかけるようにデッキにやってきたあいつから、「こんな時にごめん」と小さなキーホルダーを渡された。
修学旅行先のお土産屋さんにずらりと並んでいた、それはそれは有名なご当地ゆるキャラのキーホルダーで、たぶん女子の大半は購入したはず。私が買わなかったことを里中はなんで知ってたんだろう? いや、ええと、この場合は違う。そうじゃない。気分の悪い頭で考えてもわかる。ねぇ、里中、これって限りなく告白に近い出来事だよね?
けど。
今思えば、その後で里中と自分の間に何か劇的なことが起こったわけじゃなかった。もらったキーホルダーは大事にしていたけれど、やっぱりクラスの女子のほとんどが同じようにカバンにつけていて、里中にもらったこと自体は嬉しかったけど、大半の女子と同じことをするのがイヤで、自室の机の片隅に置いていた。そういえばあのキーホルダーのお礼もちゃんと言ってなかった。というか、あれから妙に気恥ずかしくて、里中と直接話すこともしなくて、お互いにはっきり「好き」とも「付き合ってください」とも言わないままだった。
何も起こらなかったんじゃなくて、何も行動を起こさなかったんだ。里中からキーホルダーをもらったことで、好意を持たれているって思い込んで密かに喜んでいたのは自分だけで。文字通りそれは密かなものでしかなくて、当人同士で共有することすらしていなかった。たしかにあの時、「好きだ」なんて言われていない。でも、あんなことを誰にでもするとは思えない。だったらあれはやっぱり好意の表れだよね? そう思っていたのは自分だけだった?
『里中は、キーホルダーの返事を待ってたんじゃない? アンタから何かアクションを起こせばよかったのかもよ』
そうなの? 私だったの? もしそうだとしたら……、ひとりで浮かれて、バレンタインのことまで考えたりして、なんかバカみたい。
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