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 そんなわけで昨日、失恋しました。  奈美に背中を支えてもらって歩いている間、涙が流れることはなくて、それよりも軽いショックと驚き、「はぁ?」と言いたくなる脱力感と疑問符で頭も胸もいっぱいだった。  部屋に戻ってあのキーホルダーを眺めている時、ついさっき、最後に「ありがと」と言った時の里中の顔を思い出した。  おでこが半分ぐらい見える短い前髪に、シュッと太字のマジックで線を引いたような眉。バスケ部。絵に描いたような爽やか男子高校生。濃紺のカットソーが制服よりも似合ってた。 『竹下がお前のことを好き』  それって、だから俺は身を引くよってこと?  それとも好意は特にないけど、この際カップケーキはもらう。ただ、竹下がお前を好きなんだよっていうお知らせ?  それよりも、……今自分の中にあるコレってなんだろう?  里中の顔の真ん前で、思いっきり大声で「イーーーーッ」ってやってやりたい。  ついでにお腹や背中を二、三発グーで殴りたい。  コレって、自分のものを誰かに取られた悔しさみたいなものだろうか。  もしかして涙が出るのかなとも思ったけど、そんなことを考えている時点で泣けるはずがない。それよりもぐぅっとお腹が鳴って、そんないつも通りの自分に笑えた。  失恋したってお腹はすくし、空の蒼さは変わらない。形の崩れたカップケーキをひとつ、自分用に持ち帰っていたのを思い出してぱくついた。
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