第3章

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 その日の午後に不思議な客が来た。もっとも、クリーニング店の客は、ほとんど不思議な人ばっかりだけどね。身なりは普通の、40代の女性なんだけど、 「クリーニングに出した息子のスーツが縮んでしまったみたいなんです」  と言う。それ自体は大したクレームじゃないんだけど、問題は、そのクリーニングというのが、二年前に行ったものだというのだ。 「二年前ですか?」 「はい」  と彼女はうなずいた。二年前にクリーニングに出したスーツを店から受け取ったあと、この二年間一度も着ずに、ずっと大事にしまっていたのだろうか。まずもって、そこからして怪しいし、 「申し訳ありませんが、当店では、規約にございます通り、クリーニングに関する補償期間は三ヶ月とさせていただいています」  ということになっていることを、奥村さんが丁寧な口調で言っていた。  女性はそれに対して抗弁するようではなかったけれど、二年前に出したそのとき「デラックス仕上げ」という特別な仕上げ方をしたのに、どうして縮んだりしたのだろうか、と声を荒げるわけではないのだけれど、グズグズやり出した。  奥村さんは、いちいち相づちを打っていたが、そんなことが10分近くも続いたので、 「あのお」  わたしは口を出した。こちらを向いた女性に向かって、 「単純に息子さんが太ったんじゃないんですか?」  と言ってやった。     
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