第3章

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 と思案げな目をした。 「綺麗に落ちたからいいんじゃない?」 「うーん……」 「それに、その客が、今日引き取りに来るつもりだったらどうするの? 明日来ていくワイシャツがないから、どうしても今日引き渡してもらわなければ困るとか言われたらさ」  これは冗談事じゃなくて、むしろ、引き取りに来る客の中には、そういう風に主張する人が数多くいる。断捨離がブームだからって、そこまで、徹底的に無駄な衣類を持たなくすることないのに。  奥村さんは、根が真面目なので、しばらく迷っている風だったけれど、 「……じゃあ、今日引き取りに来られたらお渡しすることにします。もし、今日来なかったら、明日の朝に工場に出して、夕方に受け取ることにします。このお客様がいらっしゃるのは、だいたい仕事終わりみたいだから、今日これから来なかったら、明日の夕方までは余裕があるので」  とレジで客が店に来た履歴を確認してから、言った。  結局、その日、その客は来なかった。  奥村さんは、安心したようだった。
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