第3章

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 女性はまるでそんな可能性を考えていなかったかのような虚を突かれた顔をした。いやいや、それが一番ありうる話でしょとわたしが思っていると、彼女は、ムスッとしたような表情になって、 「そちらはミスをしていないと言いたいの?」  と訊いてきたので、 「いえ、そうは言っていません」  本当はそう思っていたが、一応否定したあとに、 「こちらのミスかもしれないし、息子さんが太ったからかもしれないって言っているだけです。こちらのミスかどうかはもう確認ができないので、せめては、息子さんの体型が変わっていないかどうか確認してみたらいかがですか?」  そう言うと彼女は、息子の体型については何とも言わず、 「こういうチェーン店じゃなくて、個人のクリーニング店に出した方がいいのかしら?」  とあてつけるように言ってきた。わたしは、 「うちは即日仕上げが基本ですから、もしも時間がかかってもいいからとにかく丁寧に仕上げてほしいというなら、その方がいいかもしれませんね」  とはっきりと言ってやった。本当のことだからね。それを聞いた彼女は、なおもぶつぶつ何か言っていたけれど、結局、持ってきた衣類をクリーニングに出して帰った。 「なんだかんだ言って出して行くなら、なんだかんだ言わなきゃいいのに」  わたしが言うと、 「スーツが縮んでいて悔しい気持ちを吐き出したかったんだね」  奥村さんが答えた。     
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