第1章

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 入社式当日、わたしは支給された制服を身にまとって、工場へと赴いた。工場というのは、実際にクリーニングを行うところである。店舗で受け取った品物は全て工場へと送られて、ここでドライや水洗いやプレスや何やかやされて、店舗に戻されるのだった。 「おはようございます。この入社式の日には、みなさんと同じように、わたしも初心に戻ります。初心に戻って、我が社がこの社会に対して、何ができるのか、それをしっかりと考えて実践していこうと思うのです。我が社が社会に対して貢献できることを、若い力を持ったみなさんと一緒に模索し、実践していけることは、わたしの喜びです。これから一緒に頑張っていきましょう」  入社式のあいさつをした我が社の社長は、髪は薄く、お腹はでっぷりとした、典型的な中年男性だった。それでもわたしは社長に好感を持った。というのも、こんなに短いスピーチを聞いたのは、学生生活の中ではかつて無いことだったからだ。  しかし、せっかく社長が短く決めてくれたのにも関わらず、そのあとに、わたしたちの直属の上司になるマネージャーが、あーだこーだ、うだうだと午前中から昼寝をしたくなってしまいそうなスピーチを始めた。わたしは何とかあくびをかみ殺したけれど、同じ新入社員の隣の女の子なんかは、大きく口を開けてあくびをしていた。一度その子と目が合うと、彼女はにっこりと笑って、 「う・ざ・い・よ・ね」  と口を動かした。彼女に同調して、入社早々目をつけられたらたまらない。わたしは、曖昧に微笑むだけにとどめておいて、いつ終わるとも知れないマネージャーの話に耳を傾ける振りをして、夕飯のことを考えていた。  ようやくマネージャーの話が終わると、今度は工場見学だった。その日から、三日間は、工場で研修である。実際にわたしが入るのは店舗の方だけれど、店舗から送られた品物がどういう取り扱いをされるのかを知っておかなければ、店舗で接客はできないというリクツらしかった。  午前中の研修が終わって、お昼になると、近くにあったお寿司屋さんで、社長とマネージャーを含めて、昼食を取ることになった。お腹は空いていたけれど、初対面の社長とマネージャーの前ではなかなか好きなように食べるわけにはいかない。わたしが遠慮がちにつまんでいると、 「どうした? ダイエットでもしているのか?」
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