第1章

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 とマネージャーがセクハラまがいのことを言ってきたので、余計に食べる気が失せた。わたしは、隣でパクパクとまるで三日ぶりの食事ででもあるかのように豪快に食べる例の彼女を横目にしながら、申し訳程度に寿司をつまんだ。  研修期間で、わたしは様々なことをならった。あまりに様々すぎて、脳がオーバーヒートしそうなほどである。たとえば、お店が受け付けたものは、小物・礼服などの黒いもの・着物・布団・ワイシャツなどに仕分けする、染み抜きが必要な品は染み抜きをする、水洗いの品とドライ品とは分けて洗う、などなどなどなど。  高校時代わたしは、それほど成績が悪かったわけではないけれど、特別よかったわけでもなくて、こんなに色とりどりなことを覚えられるのかどうか、大いに不安になった。それで一生懸命にメモを取っていたわけだけど、入社式で目が合った女の子などは全て分かっていると言わんばかりに、メモを取るでもなく、ただぼーっとしていた。わたしは、一方で彼女をうらやましく思いながらも、一方で、彼女がメモを取らないことに関して別の可能性を考えて、一緒の店舗に入ることにならなければいいとも思った。  三日間の研修で、仕事のいろはの「い」くらいは覚えたわたしは、四日目から店頭に出た。わたしの勤める店は、県内にある店舗の中で、最も売り上げが多いところらしかった。そんなところに配属させられたのは、わたしが即戦力として大いに期待されていた、というわけでは全然なくて、単に家から近いからに過ぎない。店は、大型スーパーの中にあって、家から近いことでもって、そのスーパーも店もよく利用していた。よくよく利用していた店に、客としてではなく、サービスを提供する側として、行くのだから、なんだか妙な気持ちがした。
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