第1章

5/45
前へ
/105ページ
次へ
 店には、四人のパートの女性がいた。もちろん、高卒のわたしよりはみんな年上で、それぞれに事情を抱えて働きに来ているわけだけれど、ひときわ目を引いたのが、30歳前半くらいの女性だった。やたらと化粧が濃いのである。分厚いファンデーション、長いつけまつげ、真っ赤な口紅、としっかりと施された化粧は、人を惹きつけるためというよりは、多分に人を威嚇(いかく)するためにしているのではないかと思われた。そんな化粧で店頭に出ていいのだろうかと思うわたしの感覚は古いのかも知れない、21世紀の現代日本では、サービス業だからといって身だしなみがどうこうなんて、一応研修の時に指導は受けたけれど、それほど気にされないのかもしれないと思ったけど、 「真似しちゃダメよ」  と店長にささやかれて、そうでもないということを知った。  店長は、母よりも少し年上で、落ちついたたたずまいの品の良い人だった。同僚がどんな人たちだとしても、上に立つ人に信頼が置けるなら、安心して仕事ができる。初日に一緒に仕事をして、工場では教わらなかったレジの打ち方や、商品タグの付け方を教えてもらっているうちに、店長が懇切丁寧で、新人だからといって粗末に扱う人ではないことが分かり、ホッとした。激戦地に送られた格好だったけれど、なんとかやっていけそう。  そうして、一週間が経った頃のことだった。店の四人とちょこちょこと話をして、それなりに性格が把握でき、仕事にも慣れてきた矢先のことである。  店への客の波が途切れたときに、わたしは、何となくスーパーに来る客を見ていた。店はスーパーの中にあって、出入り口に近いところにあるので、客の出入りがよく見える。店への客は途切れることがあるけれど、スーパーへの客は途切れることなく、ひっきりなしに、自動ドアが開いては閉じ、また開くのだった。その客の一人に目を向けていたところ、偶然に目が合ってしまった。40代くらいの女性だった。わたしは慌てて目をそらしたけれど、それでも、向こうはこっちを見ているのが分かった。 「何見てんのよ!」  とつかつかと近寄って来られて文句を言われるだろうかと冷や冷やしていたところ、そんなこともなくて、ホッと息をついているとしばらくしたあと、一人の男性が店にやってきた。スーパーの店長である。 「こっちにクレームが来たよ。クリーニング店の黄色い人がにらんでくるって」
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加