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迷惑そうな目をして言ってくる店長に、わたしは素直に謝った。黄色い人とはわたしのことだ。別に肌や髪が黄色いわけじゃなくて、店の新人が、ドライバーの初心者マークよろしく身につけるのが黄色いエプロンなのである。
「おたくもうちに入っているからには、そういうクレームがこっちに来ることもあるからさあ、気をつけてもらわないと」
店長が嫌みたっぷりの声で言ってくるけれど、自分が悪いので何とも言い返すことができないわたしがもう一度謝ると、
「申し訳ありません。わたしの監督不行き届きです。以後気をつけますので」
と横から一緒にうちの店長も謝ってくれた。
あとで、わたしが謝ると、
「人が多いからつい見ちゃうのよね。わたしも初めはそうだったわ。で、視線が合っちゃうと、じーっと見ちゃって。クレームこそ来なかったけど、不信感を与えてしまったかもしれないわね。スーパーに来るお客様も、うちを利用してくださるかもしれないと思って、できるだけ不信感を与える行動は慎むようにしましょう。スーパーに来るお客様を見る代わりに、うちに来てくださるお客様の目をしっかりと見ましょう」
そう言って微笑んでくれた。わたしは、店頭に出て、一週間しか経たないというのに、もうクレームをもらってしまったことに対してショックを受けたけれど、
「ふふ、こんなことでへこたれていたら、ここでの仕事は勤まらないわよ」
店長は言う。
その言葉の意味を、わたしはこれから嫌と言うほど知ることになった。
店に入って、二週間が過ぎたころのことだった。大分、仕事にも慣れたところ、ある晩、一人の老婦人が、品物の引き取りに来た。その中に、スーツのズボンがあったのだけれど、折り目が二重線になっていた。プレス機にかけているので、ちょっとプレスがずれると、どうしてもそういうことが起きてしまう。それを確かめた婦人は、それまで穏やかな雰囲気だったのに、急に鬼のような顔になって、
「ちょっと! 三重線になってるじゃないのっ!」
と怒鳴り声を上げた。わたしはびっくりした。いきなり怒声が上がったこともそうだったけれど、彼女が主張する三重線などどこにもなかったからだ。両眼で2.0のわたしの目をもってしても、三つ目の線など見つからなかった。
「ここにあるじゃないの!」
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