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仕事に命を賭けているという風でもないのに、わたしが知っているどの社員よりも仕事をきっちりとこなす。だからといって、コミュニケーションを取らないってわけでもなくて、ちょこちょこと話はする。その話の中に、人の悪口が無いのがよかった。人の悪口って聞くだけでうんざりするけど、もっとうんざりするのは、人の悪口をわたしに言う人は、わたしがいないところでは、わたしの悪口を言っているに決まっているということだ。そんな人と、どうしてこのわたしが話さないといけないんだろうって思ってしまう。わたしは、自分自身の価値を高く見積もってはいないけれど、安売りする気は毛頭無かった。
「原川さん、これ、血じゃないかな?」
その日、工場から仕上がってきたワイシャツの仕上がり具合をチェックしていたときのことだった。あらかじめ断っておくけれど、普段は、ワイシャツの仕上がり具合のチェックなんてしない。膨大な点数のワイシャツを一枚一枚チェックしていたら、それだけで、一日の仕事が終わってしまう。その日は、たまたま客が少なく時間があって、たまたまワイシャツの点数がいつもよりも少なく労力もかからないようだったから、他にすることもないのでしていたのだった。
奥村さんは、透明なビニールで包装されているワイシャツの、その襟のあたりにある小さな染みを、指差していた。確かに、黒ずんだ血のように見える。破かないように注意して包装を取り払ってみると、それはいっそう血のように見えた。他のワイシャツも調べてみたところ、さらに二点見つかった。
どうして血なんかついているんだろう。ワイシャツはちゃんと水洗いしているのだから、仮に血が付いたシャツだったとしても、こんなにはっきりとは残っていないはずだった。そもそも、血液が付着した品物を受け付けることはない。当たり前。
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