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7月初旬の明るい日差しのもとと言えども、険悪な両家との昼食は、和やかなどには成りようもなかった。
それでも遠慮のない潤一と義母は、好き勝手なことを言いながら、お弁当をパクパクとつまんで食べていた。
「悠ちゃんは松田家の大切な跡取りですからね。意外に思うかもしれないけど、私もこの子のことは好きなのよ。なかなか利発な子だわ。可愛い顔をしているし、潤一がアメリカから戻ってくるまで、私の手で育ててもいいと思ってるのよ」
すでに親権を手に入れたかのように話す義母に、焦りと苛立ちを感じる。
潤一とよりを戻してもらいたいのは、母の願いでもあるので、勝手な義母の意見に反論する人はいない。
平川家だけが重苦しい気分で、せっかく作ったお弁当をげんなりとした気分で口に運んでいた。
「美穂先生がね、パパのこと足が速いのねって言ってた」
悠李がエビフライを食べながら、嬉しそうに潤一を見つめた。
「そうか、美穂先生はどの先生だ? 」
潤一は嬉しそうに、まだ片付けをしている保育士さん達を見つめた。
母は憎々しげに軽蔑したまなざしを潤一に向けた。
そして、まだみんなが食べているのに、お弁当のフタを閉め始めた。
「そろそろ帰りましょう。午後になったらさすがに暑くなってきたわ」
「そうね、おうちの方で話し合いましょう。わたくしも暑いのは苦手だわ」
義母も反対をせずに、お弁当の片づけを手伝った。
離婚は当事者が決めれば良いことではないか。
これから実家に戻って、また話し合いが始まるのかと思うと、逃げだしたい気持ちにかられた。
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