年下の彼

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ナースステーションに戻ると、窓際の手洗い場の横で、松田彩矢が経管栄養の前に投与する錠剤をペンチで潰していた。 なんとなく憂いを感じるその横顔は、どう見ても幸せそうではなかった。 慎ちゃんが言っていたように、佐野さんとうまくいってないのか? なにか障害になることでもあるのだろうか。 仕事と子育ての両立で、疲れているだけかもしれない。 休憩室から四、五名のスタッフがぞろぞろと出てきた。 「北村! 317号室の西村さん、痛み止めをくれって何度もナースコールを鳴らしたのよ。しつこいからロキソプロフェン渡しておいたけど、昼休みどこに行ってるのよ。休憩室で休みなさいよ!」 二歳年上の口喧しい大沢の説教には、いつもウンザリさせられる。 「ロッカー室の簡易ベッドで寝てる人だっているじゃないの。どうして私にばっかり厳しく言うのよ」 「ちゃんと休みたいなら、こういう患者がいるからお願いしますぐらい言ってから行きなさいよ。常識がないのよ、あなたは」 「私だってあなたの受け持ち患者の世話をしたことがあるのよ。お互い様じゃない!」 ふん、大っ嫌い! 初七日を終えて出勤したばかりだっていうのに、優しさのかけらもない。
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