年下の彼

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1カラットはありそうなダイヤモンドリング。 このブランドでこのクラリティ。 「う、うん、まあね。あまり小さいのだと沙織さんに断られそうな気がしたから」 「そんなことないけど、ごめんね、貯金がなくなっちゃったでしょう?」 本当は指輪などなくてもよかった。プロポーズだけで十分に嬉しかったから。 エンゲージリングは一度目の結婚のときにもらったけれど、ほとんどケースに入れたままではめる機会はなかった。 引っかかるような石のついたリングなど、看護の仕事には邪魔だったから。 「じ、実を言うと貯金じゃなくて、ローンで買ったんだ、ごめん……」 「えっ、先月ローンで車を買い替えたばかりなのに?」 以前の車を80万で下取ってもらい、今の車のローンは毎月5万円と言っていた。 「まずは婚約できるかどうかが大事だったんだよ。あとは結婚してからなんとかなるだろう。二人で頑張れば」 「………」 慎ちゃんの浪費ぐせはなんとなく気にはなっていた。 見栄っ張りなところがあって、金銭感覚がかなりヤバい。 「ゆ、指輪はいくらだったの?」 「あ、月に6万円の36回払いだったかな?」 「えーーーっ、36回!!どうしてそんな高い買い物なんてしたのよっ」 「しょぼいやつだと断られると思ったんだよ。沙織さんは僕にとって高嶺の花だったから」 ……買ってしまったものは仕方がない。 父が貯めてくれた遺産が一千万円ある。 慎ちゃんと結婚できるんだもの、そのくらいは許してあげよう。 私のためを想って買ってくれたのだから。
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