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心は、少し昂ぶっている。だって、あの筧菜純なんだから。たった四年の間だったけど、彼女の姿を、そして彼女の歌を通して、多くの日本人が夢を見た。その筧菜純が、扉一枚隔てた向こう側にいるのだ。
もう一度、病室のドアをコンコンとノックしてみる。やはり、すぐの反応はなかったが、少し間を置いて、
「はい、どちら様でしょうか?」
透きとおったきれいな声だ。滑舌もよく、慎重に繕っていることが分かる。声の主が保澄さんでないのは明らかなので、妹の真澄さん、あの筧菜純なのだろう。私の方も最大限に声を繕って答える、オーディションで自己紹介をするみたいな感じで。
「失礼します。向山保澄さんの後輩で、教外綺子といいます。保澄さんから真澄さんのことを伺いまして、お見舞い・・・・・・」
「あっ、もしかしてKIKKOさんですか、お姉ちゃんから聞いていますよ、どうぞ、お入りください」
私の言葉を途中で遮り、快活な声が弾けた。少し緊張していたこちらの気持ちも柔らかくなる。
「こんにちは・・・・・・」
顔だけ突き出すようにそっと部屋の中を覗いてみる。ベッドの上では、パジャマ姿の女の子が上半身を起こしていた。
「初めまして、向山真澄です」
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