大きな看板

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 いまをときめくイケメンアイドルの邑久平(おくひら)康史(やすふみ)が猟奇的な連続殺人犯を演じる映画『蓮葉(れんよう)』の撮影現場に私はいる。目の前で殺されたのが保澄さん、もとい菜緒さんだ。ストーリー全体の中では出番は少ないけど、犯人のサディスティックな嗜好を際立たせる最初の被害者なので重要な役どころだ。その重要シーンに私が立ち会っているのは、監督が台本を変更して「ここで二人殺してみようか」と言い出したからだった。  邑久平さんの演じる犯人がコールガールを呼んで最初の殺人を犯すシーンなのだが、呼び出す女の子を二人にして、一人目を殺した後で、死体の傍らで二人目に手を掛けるというのが変更された設定である。殺人行為に感覚が麻痺する様子を描きたいとのことで、菜緒さん殺害シーンのト書きに「コールガールB、ベッドの下で丸太のように転がる」と書き足された。それで同日撮影の別シーンで死体を演じることになっていた私が、丸太のように転がるコールガールBに指名されたのである。ところが、指示に従って裸になって丸太のように転がってみたところ、イメージした絵面(えづら)にならなかったのか、やっぱり止めようとなったのだった。
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