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「まあ、好きかな」
その声の柔らかさが耳に絡む。
それを打ち消す様に私は髪を耳に掛けた。
「じゃあ、課長も折角だから美味しいぜんざい食べて行ったら良いですよ」
「ああ、そうだな。これ終わったら一緒に行こうか」
まさか、誘われるとは思っていなかった。
てっきりお参りが終わればそれぞれ分かれると思っていたから……。
瞠目する私に、彼が咳払いをする。
「勿論迷惑でなければ、の話だけれど」
断る理由は無く、それを戸惑いながらも受け入れる。
「去年行ったぜんざい屋さんが凄く美味しかったんです。先程課長が中を覗いていたあのお店。そこに行きましょうか」
「ああ」
彼の笑みに、私も一緒に笑んだ。
大丈夫。
まだ漏れ出てはいない。
だから……。
彼の恋がうまくいきます様に。
出来るだけ早急に、と強く願う。
何なら偶然その想い人とここでバッタリ会って、そのまま結ばれたら良い。
そうすれば、この彼に抱き始めた感情の変化をまだ理性で引き止められることが出来るのだから……。
神在月の出雲大社だ。
私には見えないだけで、きっと辺りは沢山の神様で溢れかえっているはず。
それぐらいの奇跡が起きても、良いのではないか。
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