神在月、出雲大社にて

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私も職場では無駄な笑顔を見せない方ではあったけれど、彼の比ではない。 彼の、笑った顔を見た者は多分いない。 まず、表情を変えた所を見た事がない。 私が酷薄なら彼は冷徹。 まぁ、どちらも大差は無いのだろうけれど。 「ぉ、おはようございます。まさかここでお会いするとは思いませんでした。観光ですか?」 「え?あ、ああ、まぁ、そう……。そうだな」 珍しく動揺を見せる彼に、私は目を瞠った。 場所が変われば、意外な姿を見られるものらしい。 に、しても……。 正直ここで知り合いに会うというのは困ったものだった。 だって縁結大祭だ。 男をくれって神様にねだりに来ているのを知られたくはない。 特に上司には。
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