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彼女は予定があった。
俺と放課後にペットショップに行くという予定だ。
子猫を見に行きたいらしい。
はたから見ればデートと思われるだろうが、当の本人にその自覚はない。
それが俺にとって残念なことなのかはノーコメントで。
とにかくそんな訳もあって、絶賛目を回している彼女なのだ。
「どうした朝倉? まさか課題を忘れたんじゃないだろうな?」
後ろからまわされてきた課題の束を持って硬直する芽衣に担任が詰め寄る。
「あ、ええと……その……すいません」
体を縮ませて蚊の鳴くような声で謝る芽衣。
呆れたように首を横に振る担任教師――わざとらしいため息のおまけ付き。
「他に忘れた者がいれば手を上げろ」
担任教師が教室を見渡す。
芽衣が涙目で申し訳なさそうにこちらを見た。
きっとペットショップに行けなくなることについて謝りたいのだろう。
しかし彼女が思うほど俺は気にしていなかった。
ペットショップに行きたいと言ったのは彼女だ。
確かに放課後の予定が狂うことになるが、俺自身何が何でもペットショップに行きたいというわけではない。
問題はもっと別のところにあるのだ。
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