ある恋のかたち

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 沙耶はくすくすと笑うと、着替えには五分しかかけてないことを包み隠さずに述べた。 「……前に付き合ってた子がなくなったらしいんだ」 「行って下さい」 「前のカノジョなんだぞ」 「わたしにも前付き合っていた人はいますよ」  そう言うと、沙耶はワンピースの裾を翻して踵を返した。誠司は、小柄な彼女の背が遠ざかるのを少し見送ったあと、仕方なく車に乗り込んだ。いったん住んでいるアパートに戻り、クローゼットの奥深くにしまいこまれていた喪服を引っ張り出す。  沙耶には驚かされる。二カ月前に付き合い始めたばかりで、まだ二人の間に確固とした信頼関係が作られてない時期であるにも関わらず、デートをキャンセルしてモトカノの葬儀に行かせてくれるとは。同じことが自分にできるかと言えば、自信はない。  着替えて準備を整えると、誠司は携帯の着信履歴に載っている最新のナンバーを呼び出した。 「君の言う通りにする、高速で行くから、どこのインターチェンジで降りれば良かったのか教えてくれ」 「分かりました」  要請に応えたにも関わらず、特に喜んでいる調子にも聞こえない女の言葉を一応メモすると、誠司は車に乗り込んでアクセルを踏んだ。 ――今更何でオレに電話なんか……。  今日子の妹は何か勘違いしているのだろう。それがどんな勘違いがちょっと見当の付けようがないが、会えば分かることである。  東城今日子の家には、一度だけ行ったことがあった。  その時も愉快な小旅行にはならなかった。  二年前のことである。 「別れてほしいの」  実に五年付き合った彼女から唐突にそう告げられて、はいそうですか、と別れられる者がいたら見てみたい。訳を聞いた誠司が、実家に帰って見合いをする、と言われた時には開いた口が塞がらなかった。 「聞き間違いだよな?」 「この前家に帰った時にね、父に勧められたの。お前もいい年なんだからって」 「いくつだったっけ?」 「あなたと同じよ」  二十四が女性にとってどういう年齢か誠司には分からなかったが、彼女を責めるつもりはなかった。 「分かったよ。結婚しよう」  誠司は言った。  五年も付き合ったくせに、将来のことをほのめかさない男に対して揺さぶりをかけようとしても、それは常識の範囲内だろう。誠司としては、職についてまだ二年と間もないし、もう少しきちんと身の回りを整えて生活費を蓄えてからと思っていたのだが、彼女が望んでいるのならば是非もない。
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