ある恋のかたち

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 葬儀場はそこからニ十分くらいした所だった。駐車場に車を停めた誠司は、喪服に身を包んだまだ二十歳くらいの少女を見た。想い出の中の今日子の面影があって一瞬ドキッとした誠司は、コンビニで買って中に幾らか包んだ香典袋を彼女に渡した。  焼香するときに見た二年ぶりの今日子の顔は綺麗だった。少しは心揺れるものがあるかと思った誠司だったが、そういうこともなかった。好きなように生きて死んだのだ。そう言ってしまうのは言いすぎかもしれないが、少なくとも対誠司との関係ではそうだった。  故人に別れを告げた誠司は、奈津を捕まえて、今日子の夫を紹介してもらおうとした。ほんの好奇心である。あの今日子が選んだ男がどういう人物か興味があった。ただし、奈津が少しでも逡巡する素振りを見せれば、それ以上強いる気はなかった。葬儀という厳粛な場で、元恋人と旦那が故人を偲ぶという三文芝居を演じるつもりは毛頭なかった。 「姉は結婚していません」  誠司に向けられた奈津の目は暗いものだった。 「結婚してない?」  誠司の問いに、奈津は静かにうなずいた。分からない話である。実家に帰って来たのは結婚のためではなかったのか。一瞬、破談になったのかとも思ったが、そんなことも訊けず、次の言葉を待つと、 「全部嘘なんです。姉が家に戻ったのは結婚の為なんかじゃありません。病気の療養の為です。姉は癌だったんです」  奈津は震える声で言った。  ショックに耐えさせる為か、あるいは逆により強くショックを与える為だろうか、彼女は少し時間を取ったが、誠司はそのどちらでも無かった。  腑に落ちた。 ――あ、そういうことだったのか。  と雑然としていたピースが俄かに形を取り始めるのを感じた。 「姉は癌だということが分かって、あなたの迷惑になると思い、お付き合いを止める為に、結婚するなんていう嘘をついたんです。姉はあなたと別れてから一人でした」  高ぶるものを抑えたようなその口ぶりから、誠司は怒りの色を聞いた。 「一カ月前に小康を得た時に、これをあなたに返すように言われたんです」  そう言って差し出した手の上に、傷のついた小箱が乗っていた。二年前に、今日子の家に捨てていった指輪である。
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