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私の家じゃない、と言う間もなく腕を引っ張られ車から降ろされた。そのまま先生に腕を引かれて、マンションのエントランスに連れていかれる。何が起こっているのかわからない私は、先生にされるがまま。先生がエレベーターのボタンを押すと、すぐに扉が開いた。先生が私の背中を押してエレベーターに押し込み、自分も乗り込んだ後に13階のボタンを叩くように押した。何か言いたくても喉が収縮してしまって言葉が出ない。すると私に背を向けていた先生が振り向いて、私を壁に押し付けた。
『んっ、』
背中に感じる鈍い痛みと、唇に押し付けられる熱い感触。目の前には短い睫毛が並んでいて、先生のコロンの香りが私の鼻を刺激する。
先生が、私にキスしてる。
どうしてキスなんてするのか、そんな疑問が浮かぶより先に私の理性が砕け散った。先生の背中に腕を回してぎゅっとしがみつくと、それに応えるように先生の舌が私の唇の隙間に入り込んだ。エレベーターという狭い空間に響き渡る生々しい音が、私たちの欲を更に掻き立てる。
途中、エレベーターが13階に着いたことを知らせる。先生はまた私の腕を掴んで歩き出し、先生の自宅であろうドアの前で立ち止まり、鍵を差し込んだ。そこで私はハッとする。
『......先生ダメ!奥さんいるでしょう...』
そう言って先生の腕を掴んで制止させると、先生の小さな瞳が私を捉えた。
「とっくに、別れてるよ」
先生はそう告げるとまた私の背中を押して強引に部屋に押し込み、玄関の壁に両腕を縫い付けられキスされる。その反動で私の上着のポケットに入っていたスマホが"ゴドッ"と鈍い音を立てて落ちた。
それと同時にスマホのディスプレイが光り、着信を知らせるバイブが鳴った。
"────着信、岳"
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