決心

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決心

ちゃんと娘と話をしてみるかな、と、ある日私は、泣いている娘をいつものように撫でて慰めながら、決心をしてみた。 なぜ決心が必要かというと、それにはどこかのタイミングで仕事を休んで、1日、娘と一緒に過ごすことにする、という、具体的な計画だったからだ。 私はこの時期、仕事が多忙で、家庭にいる時間が少なかった。朝は娘が目が覚める前に出勤し、夜はもう娘の寝る時間の直前という生活が続いていて、それがそもそも良くないような気がしていたのだ。 また折の悪いことに、この時期は町内会や消防団の用事もいろいろ重なっていて、貴重な休日がそれで埋まってしまってばかりだった。 それで、ようやく帰宅したときに娘が泣いていると、慰めているうちに娘は寝てしまうので、娘と話をするためには、そのための時間の都合をどこかでつける必要があり、そのためには、あの話すだけでどっと疲れる苦手な上司に、休暇の相談をしなければならない。 そんな上司への休暇の相談くらい、ちゃんとしたことが当たり前にできる、ちゃんとした人達にはなんでもないことなのだろうが、私には一大決心が必要だったのだ。 幸いなことに、月曜日に上司に相談すると、休暇は普通に取れた。 「パパ、今度の金曜日、お休み取れたけど、どこか遊びに行きたいかい?」 「ほんと?すいぞくかんがいい!さんにんでいこうね!ママ、おべんとうつくってね!」 平日の水族館はすいていて、ほとんどの魚が、私たち家族の貸し切りのようなものだった。妻には、少し娘と二人で話す時間をもらってもいいかな、と事前に相談しておいた。特に細かい打ち合わせはしなかったけれども、深海生物のフロアの、タカアシガニがいる水槽の前で自然と娘と二人になったので、そこで話をすることにした。 「すこし、パパとお話ししようか」 「うん、いいよ」
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