タカアシガニ

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「パパのことも、ママのことも大好きなら、少し教えてくれないかな」 「なに?」 「ママのこと大好きだから、叱られると泣いちゃうのかな?」 「ちがうよ。なくのはこわいからだよ」 「ママが怖いの?」 「ううん、ママはこわくないよ。でもママのこえがこわいときがこわいよ」 「声が怖い時があるんだね」 「うん。ママのいってること、いつもよくわかるんだけど、こわいこえのときはこわくてないちゃうんだよ」 「そうかそうか、声がねぇ……」 「パパはいつもこわくないこえだから、へいきだよ」 「今の話、ママにしてもいい?」 「えー、はずかしいからだめだよ」 「わかったよ、じゃあ、ママには言わないでおくよ」 その後、水族館でたくさん遊んで、帰り道に眠ってしまった娘を背負いながら、私は結局、タカアシガニの水槽の前での話をそのまま妻に伝えた。 たぶん、ちゃんとした父親なら娘との約束をちゃんと守るのだろうが、私はちゃんとしていないし、その方が家族みんなが笑顔になるかなと感じたのだ。 あとで娘に、ママにいわないっていったのに!って怒られるかもしれないけど、その時はちゃんと謝らないといけないな、と話すと、妻は少し笑ってくれた。
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