17人が本棚に入れています
本棚に追加
――こんな風にして、珀もいづれ、俺の傍から離れて行ってしまうのだろうか。完璧すぎて自分が駄目な人間に思えてくる、と言って。
「で、俐斗の今回の目標は?」
「勿論、全教科九十五点以上だ。高二の夏だからと言って、気を抜くわけにはいかないからな」
笑いながら俐斗は言った。感情があまりこもっていないような乾いた笑い。
「……珀。最近思っていることがあるんだ」
「何?」
「こんな人生やり直せるなら、やり直したい、と。馬鹿な願いだよな」
変なことを言ってしまった、と俐斗は思った。珀は、しばらくして答えた。別に、反応に困っていたのではない。答えに困っていた。
「今までがどうであっても、これからの行動を変えていくことはできるんじゃないかな?
」
まさか真面目に言葉を返してくれるとは思っておらず、俐斗は驚いた。笑って流されるかと思っていた。
「ありがとな、珀」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
「そっか」
「ああー、終わった、終わった。二つの意味で」
――これだから、無計画な奴らは……。終わった、終わったというほとんどの人は、二つの意味を込めて言っている。
「まあ、俺らがどんなに頑張っても一位はあの俐斗サマだろ?」
「だよなー。やっぱ天才は違うよな」
――勝手に言ってろ、馬鹿どもが。別に、俺は天才なんかじゃない。お前らは、俺に勝る努力をしたのか?
俐斗は、ぐちぐち言う彼らに、そう問い質したい気分だった。ただ、それを行動に移せば、さらに面倒な事になるのは明白だった。
「俐斗、どうだった?」
「ああ、いつもと変わらな―――」
そう言いかけた俐斗は、急に頭が締め付けられるような感覚に襲われた。
「だ、大丈夫!? 俐斗、保健室に行った方がいいよ!?」
急に椅子から崩れ落ちた音に珀だけが反応したわけじゃない。皆が反応した。
――こうやって来てくれるのは、珀だけか。ま、別にどうでもいいが。
「……行ってくる」
「うん……」
最初のコメントを投稿しよう!