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「失礼します」
保健室や病院のあの、多種多様な薬が混ざった臭いが、俐斗を包み込む。
――嫌いな臭いだ。まあ、こんな臭いが好きな人なんて、天然記念物並みに少ないと思うが。
「あらあら、珍しい来客もあるものね。どうしたの? 元島君」
――相変わらず、変わった雰囲気を持つ先生だ。まるで、この世界に存在していることが、不思議なような……。何を考えているんだ、俺は。あまりの頭の痛さに、思考回路がやられてしまったか?
「ところで、どうしたのかしら?」
「俺としたことが、テスト勉強にかまけて、体調管理を怠ってしまったようです」
俐斗は、帰りのショートホームルームをやっている頃だということを考慮して、熱があるかないかだけ確かめて、家に帰る気でいた。しかし、先生は、マグカップにコポコポとお湯を注ぎ、茶色い袋を開けてその粉と、何か良く分からない物を入れた。
――夏なのにもかかわらずホットココアか。
「勉強を頑張ることは大事だけど、たまには体を休めることも大事よ。はい、これ、飲みなさいな」
「これが、噂の先生特製ココアですか」
「噂なの?」
保健室で出されるココアにはある黒い噂があった。ココアを出された生徒が次々と行方不明になっているのだ。行方不明になっているにもかかわらず噂が出ているのは、保健室の麗しい先生の手作りココアを放っておけなかった強靭な男たちがいたせいだ。
「はい、美味しいと評判です。しかし、このココアを飲んだ生徒が、次々と行方不明になっているのは、穏やかじゃないと思いますが」
「……このココアは、具合が悪い生徒に出すことよりも、心の健康に問題がある人に出すことが多いわ。結果的に功を奏さずに、不登校になってしまっているだけよ。大体、貴方は、考え過ぎるきらいがあるから、気をつけた方がいいわよ?」
「そうですね……」
そう答えたものの、俐斗は腑に落ちないでいた。
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