Opening 彼だけの、でもありふれた物語

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Opening 彼だけの、でもありふれた物語

 五歳の時、弟が生まれた。その時から、俺はいつも完璧を目指していた。両親を盗られそうで怖かった。独りになってしまいそうで怖かった。だから、苦手だったスポーツを頑張って、運動会ではどんな種目も一位がとれるようになった。縄跳びも、鉄棒も、クラスの中で一番上手かったのは、この俺だ。本当はやりたくなかった勉強も、毎日毎日頑張って、九十五点以下の点数は取ったことがない。おかげで、親は盗られずに済んだ。「俐斗は、良い子だ」と、褒められた。けれど、親以外の大切なものを得られたかといえば、否。上手くできても、好きなスポーツなんてない。満点を採れても、好きな教科なんてない。 「完璧すぎて、私が駄目な人間に思えてくる」 「元島って、本当に人間かよ。 出来過ぎてて怖いわ」 「俐斗は、すげえと思うよ。でもなあ……」 皆、同じようなことを言って、俺のそばから離れていった。幼いころの小さな嫉妬心が、学校生活をすべてぶち壊した。  中学校に入ってからの俺は、テストでわざと間違えるようになった。でも、九十五点以上は取れるように調整はして。  つまらない  退屈だ いつからか、そんな風に思うことが多くなった。退屈な毎日。つまらない世界は、彼を置いて今日も廻る。
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