海の月

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大学生になって早一ヶ月。 最近、ほんの些細なことで悩んでしまう。 友達はある程度できた。 それでも、本当に心を開けているのかどうかわからない。 友情の度合いを他の子と比べてしまったりもしている。 勉強面では課題に追われるばかりで、何ひとつ知識を吸収出来ていない気がする。 私は何がしたくて大学に入ったんだろう。 やりたいことがたくさんあるはずなのに。 私の将来はどうなるのかな。 まるで先の見えない真っ暗なトンネルの中にいるみたいだ。 そんなことを思いながら、ひたすら歩く。 色鮮やかな街灯が夜の闇を照らす。 人の流れは波のようで。 もう私は子供じゃないんだなと思う。 高校生までは、1人で夜に街を歩くことなんてなかった。 夜って言ってもまだ8時だけれど。 人混みを抜けて細い路地に入っていく。 すると、ふとある看板が目に映る。 ─海の月 ガラス戸を覗いてみるとそこには青の世界。 水槽がいくつも並んでいた。 暗闇に浮かぶその水槽の青がきれいで。 私は思わず足を踏み入れる。 ガラス戸を押し開けるとカランカランとベルが鳴った。 まるで喫茶店みたいだ。 いや、喫茶店なのだろう。 外からは見えなかったが、奥にはカウンターがある。 カウンターには白髪のメガネをかけた60代くらいの男性がいた。バーテンダーのような格好をしてコーヒーカップを拭いている。 「いらっしゃいませ。」 静かに言ったその声や店内のBGMのクラッシックに妙に落ち着きを覚える。 そうだ。昔、父にこういうレトロなお店によくつれていってもらってたからだろう。 椅子に腰かけて手渡されたメニューを見る。
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