神様の殺し方

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「神様を殺す方法を知っているか」  駅前の交差点で拡声器を手に持ったコートを着た男が演説をしている。道行く人々は誰も耳を貸さない。川の水のように流れていく人々を彼の言葉は執拗に追いかける。そして僕ののど元に食らいつく。僕は彼の演説を聞くことにした。ただし道路の反対側で。 「異常気象が続き、世界はまた終わりに近づいている。これはある調査の結果だが、今のままでは来年には人間は絶滅する。これはもう決まったことだ。決まったことに文句を言っても仕方ない。それならば運命を変えるのはどうだろうか。例えば、核爆弾を落とすと言うのもいいかもしれない。運命的に絶滅するよりももっと早く絶滅できる。これは積極的絶滅というものだ。私が考えた言葉だが」  人々の歩く速度は男の前で明らかに加速していた。あんな頭のおかしい人にはかかわらない方がいい。僕は世界から孤立していた。僕だけが彼の言う言葉に耳を傾けている。それなのに彼は僕に向かって話しかけてくれるわけではない。少しいら立ちが募る。もっと聞いてくれる人にだけ話せばいいのに。 「もしくは、今の生活をすべて捨てて原始に戻ると言うのはどうだろうか。そうすればいずれ絶滅するかもしれないがそれは来年ではなくなる。これを私は消極的絶滅と名付けた。男なら最後は華々しく散りたいものだ。だから、私は積極的絶滅を選ぶ。とでも言うと思ったか?」  男は声を張り上げる。驚いたカラスが威嚇するような声を上げて飛び立つ。キジバトは気の抜けたまさに平和が似合うような声で鳴いている。男の演説はピークを迎えたようだ。顔は赤くなり蒸気すら昇っている。拳を固く握りしめぶんぶんと振り回すさまは何とも無様で滑稽だ。 「絶滅を避けるには、今までもそうだったように科学に頼るという方法がある。科学はいつでも人間の後押しをしてくれる。科学はいつでも人間の支えになった。だが、もう一度考えてみろ。今、我々が世界の終末の目前に生きているのはすべて科学のせいではないか。科学は人間の味方であり、地球の破壊者であり、人類の虐殺者であったのだ。いいか、科学は最後に裏切る。真に信じるべきは、そう、神なんだ。人知を超えた力を持つ神なんだ。皆で神を信じて終末を乗り切ろう。今こそ集え、太陽神フレアの下に」  フレアは新興宗教団体だった。世界の終末を利用して急速に信者を増加させていた。
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