第1章 もしも浦島太郎が玉手箱を空けなかったら

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もう3日は歩いただろうか。村はいっこうに見えてこない。ラムダ村という村に鬼の目撃情報があったという話を聞き、私たちは村を目指して荒野を歩いていた。この目撃情報は各地にいる諜報員から得たものだ。私にはたくさんの仲間がいるが、いつも行動を共にしているわけではない。私は各地に諜報員を派遣し情報収集を行っており、どこかで、鬼に関する有益な情報が得られれば、伝令役の雉が私のもとへ情報を運んでくれる。その情報をもとに今私達は旅をしている。今までもいくつか鬼の目撃情報があったが、いざ現地へ行ってみると、単なる見間違いであったり、私たちをからかおうとした人のいたずらであったりして、未だに鬼の姿を確認することはできていない。今回こそ…と思いながら私たちはラムダ村を目指しているが、街どころか人の姿が全く確認できない。水や食料ももうわずかしか残っていない。前の町で仕入れた水とパンがまだ少しあるが、私を含めた今回のパーティメンバー全員が生き残るためにはあと1日が限界だ。今回のパーティメンバーは2人と3匹。私と吸血鬼、それに物語通りの3匹だ。いざとなれば、雉を食料にすることもできるが、唯一空を飛べるメンバーを失うのはリスクが大きい。この荒野から町を見つけるためには空から探すのが一番効率がいいからだ。また、犬や雉を食べることもできなくはないが、きっと不味い。それ以前に、長い間旅を共にしてきた仲間たちを食べるという鬼のようなことは私にはきっとできない。そんなことを考えていると、空を飛んでいた雉が地上に戻ってきてこう言った。 「桃太郎さん。建物のような物が見える。町かもしれない。」 私たちは子どものように喜んだ。 特に吸血鬼は 「久しぶりに人間の血が吸える……!」 と心を踊らせていた。
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