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ピンク色になった木々、でも私の瞼は重く、すっと目線は自分の足元を見た。
「靴ぐらい、春物にしなきゃ」
黒い、くたびれたパンプスは、みじめさをもっと暗くした。
泣いてばかりはいられない、前を見なきゃ。
公園に降る雨が優しい色をしていた。
付き合って三年、結婚まで考えた、子供でもできれば、私の人生も変わっていたのだろう。今から二年前、彼がよそよそしいような気がした。
女ができた。
そう思った。
女のかんは鋭い
案の定、別れを切り出された後、出会ったうわさの女は、おなかが大きく、勝ち組の堂々とした態度で、微笑みながら立ち止まった私の横を通り過ぎた。
同じ職場、居るのがつらかった、私だけじゃなく、周りの人も。
男が上位、まだまだ社会で女は認められない、だからやめるしかない。
やめるしかなかった。
「三上さん、見ました?お昼の公園」
「なんかあったの?」
こんな雨の日に抱きあっちゃって、うらやましいなという年下の女子に彼氏ぐらいいるでしょとからかう。
「いませんよ、でもこの公園で出会うと、結婚できるのか、狙ってくる人いるんですよね」
「へーそうなんだ」
そんな迷信、信じないほうがいいかも、普通の公園だし、昼はおじさんばっかり寝てる、そんなところあるなら毎日通うわよと笑って言った。
彼女は、こんな日は笑ったほうがいいですよね、といった。
気を使ってくれたのかななんて、それは私だけの思い過ごし。
仕事は前と同じ、職はすぐ見つかった。つてもあった、ラッキーだった。
小さい会社だが、職場の環境はいい、座った席から見える大きな窓は、公園の木々が見え毎日目を休めてくれる。
年齢はまだ二十代、だけどもう三十の壁は目の前。
「どうだい、仕事は慣れた?」
見上げると、ここを紹介してくれた人。
この会社の社長の友人、前の会社の取引先の方だった。
「はい、その節はありがとうございました」
「よかった、頑張って」
ちゃんと自分のことをわかっていてくれる人もいる、頑張らなきゃ。
仕事に生きる女も捨てたもんじゃない。
田舎の母を思い出す、女で一人で、三人の子供を社会に送り出した人、だから、そんな生き方もいいと思う。おもえるようになったのだ。
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