上を見上げる人

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夕方五時。 もう、彼たちは帰るころ、ちょっと急いで外へ出た。 みんなが上を見ている。 明かりがついた。 ピンク色の、商店街の飾りが、ピンク色をもっとピンクに染めた。 彼達の前を歩く、それだけで彼を感じられるような気がして、ドキドキするのもなんか気分がいい。 「行って来いよ」 「声かけて来いよ」 そんな声が聞こえたような気がした。 駅のほうへ向かって歩き出した。 「あのー」 その声に振り返った。 彼だ。 「お時間ありますか?」 ナンパ、初めてかも 「少しなら」 小さくガッツポーズしてるし、おかしくてくすっと笑った。 これから、みんなと会社に戻ってそれから帰るのだそうだ。 テレテレで、私も何を話していいのか。 「明日土曜日はお休みですか?」 「ええ」 「よろしければ明日、ここに、十時に来ていただけますか?」 「十時?」 「映画でもごいっしょにいかがでしょう」 緊張してるのか、ぎこちないし、それになんか素敵すぎて。 「私でよろしいんですか?」 ぱあーっと顔の表情が変わった。 ポケットをパタパタと探して、中から、革の小さな名刺入れを出した。 「小川雅紀です」 「あー、えっと、三上江(こう)です」 私もバッグから名刺を出した。 ありがとうございますと深々と頭を下げられた。 小川、帰るぞ! 「すみません、それじゃあ明日、お待ちしてます」 小さく手を振って、車に乗り込む彼たちを見送った、車の中で、頭をたたかれ笑っている彼。ほかの社員たちにたぶんからかわれているんだろうなと思い、彼も手を振っていた。
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