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就職して三度目の春が来ようとしていた。
右も左もわからないこの町に一人暮らし。
やっと仕事も覚えて、後輩もできた。
自分だけの時間、余裕もできてきて、周りを見れるようになってきた。
上京してからは年末になるとかかってくる親からの電話にいろんな言い訳をつけて帰省しないようにしていた。たった何日かの休みでも寝ていたかったというのが理由で、それを言い訳にするのが、面倒で、ウソをついていた。
だけど、それもこうも余裕が出来ると変わるのか、その年の暮れは、予定を立てて帰省した。
妹も来年高校を卒業して上京するつもりだと聞かされていた。
こっちに戻ってきてから妹から連絡が来た。そうなったら会社に寮があるところに入るという。だから安心しての言葉になんかほっとした。
「一緒に住め」なんて親に言われたらとてもじゃないけど一人ライフを満喫していたのが壊れてしまう、やっとなれたのに。
帰省した時、いやいや話してた私、妹はなんか感じてくれたんだろうなと思った。感謝!
入社して一年は、覚えることが多すぎて、あっという間に冬になっていた。
同期で入った器用な子は、友人や恋人もできて、楽しそう。
でも私は……そういうの無理なんだよなー。
人見知りって言うけど、初めて会う人って、緊張しないのかな、ほんとそれで損してるって妹に言われた。
別に友達って必要なのかな。
「友達が恋人になるんじゃないの?」
「お母さん、何でお父さんと一緒になったの?」
何でだろ、こんなオヤジ、ため息をついている。
横になってテレビを見るお父さんが、お腹をポリポリ、ついでのようにブッとおならをした。
「おとうさーん」
「もう嫌だ~」
「もう、部屋行く」
結婚した当時の写真は、なんか笑いもしない、むすっとした顔ばかりで。無表情で映っている結婚写真。ただ、うちらが生まれて、抱くお父さんの笑い顔。
「しあわせそうだな」
こんな結婚できるのかな?
「ハ―ア、どっかに、こんなダメダメな女の子をもらってくれる人と出会って見たーい」
一人暮らしの窓から、満月に向かって言ってみた。
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