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依頼主は、冴えない中年男性だった。
パッと見改造を受けていないように見えるが、耳を澄ますと機械の動く音がする。 この男も『Dem』に膝をついたのだろう。
「いやあ…こんなところまで来てくださってすいませんねぇ…」
へらへらと笑いながら案内する男性に特に一人と一機は興味を示すことはない。彼らの頭にあるのは山と積まれた仕事をいかに早く片付けるかだけだ。
そんな様子に気付かず男性はへらへらと話しかけてくる。
「しかし…お名前を伺った時は女性の機械屋なんて珍しいものだと思っていたのですが…まさか男の方だったとは。しかもこんな子供の。」
その言葉にエリスは不機嫌そうに眉を顰める。
「ふん、体の弱い子供に異性の名を付けると死神に連れていかれないという爺の腋より古臭い習慣のせいだ。こっちは迷惑している。何度そのリアクションを聞けばいいのかとな。」
「は、はあ…」
男性は不機嫌そうなエリスの返答に小動物のように肩ををびくりとさせ、おろおろと手を動かした後、目を伏せて奥の百合が彫られた赤いドアを開けた。
「その、こちらです」
ドアの先は、子供部屋だった。
ベビーピンクに彩られた調度品や小物が、幼い少女が主であることを示している。
その中央で、オルゴールを開いたり閉じたりしている少女型のガイノイド。
小さなガイノイドは狂ったようにオルゴールを開閉している。まるでその指令しか受けていないとでも言うかのように。
男性は困ったように頬を掻きながら、
「昨日の夜からあんな感じでして…私のたった一人の娘なのです。どうか直してやってください」
エリスはため息をつき、頭をがしがしと掻きながら、傍に控えるファウストにガイノイドの電源を切るように指令する。
その瞬間。
眩い閃光が走り、ファウストの左腕が金属部品やケーブルの破片をまき散らしながら吹き飛んだ。
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