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「な…っ」
さすがにエリスの仏頂面にも驚きと緊張の色が浮かんだ。
背後にぼとりと金属の腕が落ちる。
正面を向くと、先ほどのガイノイドが白痴のようにぽかりと口を開けていた。
舌があるべき場所には、レーザーガンの銃口。
くつくつと、背後で笑い声が聞こえる。
先ほどの男性だ。先ほどの気弱で冴えない印象は霧のように消えていた。
「おや…完全破壊とは至らなかったか。残念だなあ」
ファウストは主を庇うように前に立つ。燕尾がひらりと舞った。
「…あのご依頼は嘘ですね。本当の要件をお話しください。」
「おやおや、随分と出来た執事さんだ…君たちが知る必要は無いよ。だってここで死ぬのだから。」
使い古された昔ながらのヴィランのような台詞を吐く男に呆れ顔を浮かべ、
まあそうだろうな、とエリスは懐のレーザーガンを取り出す。
「ファウスト。俺は守らんでいい。あっちのじゃじゃ馬姫をたたっ壊しとけ。」
「御意に」
片腕で何ができる、という男の声は、がしゃんと機械が派手に倒される音にかき消される。
ファウストの革靴は、早くもガイノイドの豪奢なドレスを踏みつけていた。
その間、僅か1秒足らず。
「なんだと!?」
男の驚愕の声に、エリスはにやりと笑う。
じたばたと暴れるガイノイドのドレスを、ファウストは無表情のまま影踏みのように足で押さえつけたままだ。
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